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『会社を設立して法人成りすれば、支払う税金が安くなるのですか?』
法人成りを検討中の個人事業主様から、このようなご質問を受けることがよくあります。
個人事業主の方が法人成り(法人化)することによって、税金の負担が軽くなるというケースは、確かにあります。
ただ、法人成りによる節税面ばかり見ていては、『個人事業主として事業をやっていくべきか?あるいは、法人成りして会社として事業をやっていくべきか?』という問いに対する正しい方向性は見えてきません。
法人成りには、それ以外にも多くのメリット・デメリットがあるからです。
以下に、法人成り(法人化)のメリットとデメリットをわかりやすくご説明していきますので、法人成りをご検討中の個人事業主様は、ぜひご参考になさってください。
(1) 対外的な信用力が増大します!
一般的には、個人事業よりも法人の方が、社会的に高い信用力を得ることができます。
対取引先のことを考えても、個人事業よりも法人の方が信用力が高い分、取引や契約などビジネス上の交渉を有利に進めることができます。
取引先によっては、法人(会社)でなければ取引してもらえないというケースもあります。
(2) 金融機関から融資を受ける際にも有利です!
銀行などの金融機関から融資を受ける際にも、通常は個人事業主よりも法人の方が融資が受けやすくなります。
融資を受ける際、金融機関から連帯保証人を立てて欲しいと言われることがありますが、個人事業主の場合には、別途連帯保証人になってくれる人を探さなければなりません。
その点、会社であれば、代表取締役個人が連帯保証人になれば、それで認められるケースがほとんどです。
(3) 人材確保がしやすくなります!
社会的信用力が高い分、働き手にとっても、個人事業よりも法人の方が魅力的に映るものです。結果として、より優秀な従業員を雇用することができるようになります。
(4) 事業拡大、売上拡大を期待できます!
前述した3つのメリット、すなわち「(1) 取引先から高い信用力を得られる」、「(2) 金融機関から融資を受けやすい」、「(3) 優秀な従業員を集めやすい」を一言でまとめてしまえば、要するに、
『個人事業よりも法人(会社)の方が、ビジネスそのものを有利に進めることができる!』
ということになります。
結果として、個人事業よりも法人成り(会社設立)した方が、事業拡大、売上拡大を見込める可能性が高くなるという結論になります。
(5) 責任の範囲が限定されます!
法人の場合、原則として債務の弁済に対しては、自分が出資した範囲内での責任に限定されます。(株主有限責任の原則)
事業が拡大していくにつれて、個人事業のままでは負担するリスクも増大しますが、株式会社として事業を運営していくことにより、そのリスクを軽減することができます。
〔※ ただし、株主と代表取締役が同一人であるような同族会社が金融機関等から融資を受ける際には、代表取締役を連帯保証人として立てなければならないことが多いので、その場合には、債務の弁済義務は出資額にとどまらず、個人財産に及びます。〕
(6) 事業の承継をスムーズに進めることができます!
個人で事業をおこなっている場合、個人事業主本人が病気などで働けなくなってしまうと、取引先によっては、それ以降取引を続けてくれなくなってしまう可能性があります。
その点、会社であれば、たとえ代表取締役社長が病気やケガなどで働けなくなったとしても、きちんと後継者を決めて、会社組織そのものが従来と変わらず運営されていけば、取引先に対しても不安を与える度合はかなり少なくなります。
また、個人で事業を行っている場合、その本人が亡くなったときには、相続財産を保護するという名目で個人の預金口座は凍結され、自由に預金を引き出したりすることができなくなります。
その点、会社であれば、法律上の考え方として、会社と代表取締役個人は別人格を持っているとみなされます。そのため、代表取締役個人が亡くなったとしても、会社の預金口座は、通常通り使用することができ、金銭面での支障をきたすこともありません。
(7) 税金面でさまざまな節税対策を講じることができます!
《例1:「給与所得控除額」を差し引くことができます!》
個人事業主が法人成りして、その会社の代表者になった場合、その代表者は、会社から役員報酬(役員給与)をもらうことになります。
その給与所得に対する税金の計算をする際には、給与所得者の必要経費分として、「給与所得控除額」を差し引くことができます。
つまり、法人成りして会社から役員報酬を支給するようにすれば、事業のために支出した経費に加えて、給与所得控除(給与所得者の必要経費)も差し引くことができるわけです。
言わば、経費を二重で計上できるようなことができるのです。
《例2:消費税の納付の免除を受けることができます!》
会社設立時の資本金額が1,000万円未満であれば、会社設立後、1年間(1期間)は免税事業者として、消費税の納付が免除されます。
〔2期目以降は、前期の上半期における課税売上高が1,000万円を超えているかどうかで、課税事業者に該当するか免税事業者に該当するかが判断されます。(平成25年1月1日以後に開始する事業年度より適用されます。)〕
《例3:個人と法人の税率の違いを利用して節税が可能!》
個人事業者の場合、年間の所得金額が1,800万円を超える場合には、「所得税額=課税総所得金額×40%-2,796,000円」と計算され、所得税、個人住民税及び個人事業税を含めた実効税率は、40~50%になります。
簡単に言えば、利益の40~50%を税金として納めなければならない計算になるのです。
それに比べて、株式会社(資本金1億円以下の中小法人)に課せられる法人税は、所得金額のうち、年800万円以下の部分に対しては、15%であり、年800万円超の部分に対しても一律で25.5%と規定されています。
法人税、法人住民税及び法人事業税を含めた実効税率についても、所得金額が年800万円を超えていても40%程度でおさまります。
これらの税率の違いをうまく活用することにより、節税効果を計ることができます。
〔※ ただし、課税所得金額が少ない場合には、法人成りするよりも個人事業者として青色申告した方が納税額が少なくなりますので、ご注意ください。〕
《例4:欠損金を9年間繰り越すことができます!》
青色申告をしている法人(株式会社)は、欠損金を9年間繰り越すことができます。
つまり、会社(青色申告法人)であれば、たとえ赤字になってしまったとしても、その赤字を翌年以降9年間のうちに発生した黒字と相殺できるため、大きな節税効果を期待できるのです。
これに対して、青色申告をしている個人事業者の場合、純損失の繰越しは3年間しかできません。
《例5:退職金の支払いを損金として処理できます!》
株式会社であれば、会社から代表者本人や家族従業員に対して、退職金を支払うことができ、その金額が適正であれば、損金として処理することができます。
これに対して、個人事業の場合には、事業主本人に退職金を支払うという概念がないため、必要経費に計上することはできません。
また、個人事業主の方が家族従業員に退職金を支払ったとしても、同様に必要経費には計上できません。
《例6:会社で契約して支払った生命保険料は、その保険の種類によっては、全額経費で落とすこともできます》
保険の種類と契約内容によりますが、会社が契約者及び支払者となっている生命保険については、その支払額の全額を経費計上できたり、半額を経費計上できたりするものがあります。
これに対して、個人事業の場合には、生命保険料控除として所得控除できるのは、一般の生命保険料、介護医療保険料及び個人年金保険料を合わせても12万円が上限とされています。
法人成り(会社設立、法人化)には、確かに数多くのメリットがありますが、以下にご説明するようないくつかのデメリットもあります。
(1) 会社設立の登記が必要であり、費用がかかります
株式会社を設立する場合、登記費用の実費として、最低でも約24万円(電子定款認証を受ける場合には、約20万円)かかります。
司法書士等に会社設立登記の手続きの代行を依頼すれば、さらにプラス数万円の報酬費用がかかります。
(2) 会社の帳簿作成や税務申告書の作成は複雑・難解です
株式会社の場合、複式簿記に基づいた帳簿を作成する必要があり、また会社の税務申告書は、個人事業主の方が提出する確定申告書に比べて、複雑・難解な仕組みになっています。
そのため、これらの経理処理については、通常は、税理士等と顧問契約を結び、その指導・助言の下で進めていくケースが多くなります。
税理士の顧問料は、その会社の規模と依頼内容によってさまざまですが、一般には、年間で30万円~80万円くらいはかかります。
(3) 交際費の損金算入額に制限があります
資本金1億円以下の法人の場合、一事業年度(12ヶ月)における交際費の定額控除限度額は800万円であり、それ以上支出したとしても損金処理はできません。
〔※ ただし、「社外の取引先等との飲食代のうち、1人当たりの金額が5000円以下のもの」については、交際費の定額控除限度額800万円から除かれます。〕
個人事業主には、交際費について、上記のような規定は設けられていません。
(4) 赤字でも法人住民税の均等割の負担がかかります
株式会社の場合、決算申告が赤字であっても。法人住民税均等割(最低 7万円~)の負担がかかります。
(5) 社会保険(健康保険・厚生年金保険他)への加入が義務づけられます
会社には、社会保険(健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険)への加入が義務づけられており、会社はその保険料の半分を負担しなければなりません。(ただし、労災保険は全額会社負担です。)
社会保険料のうち、会社が負担する額は、給与等として支払う額の約15%にもなります。
しかしながら、求職者や従業員にとっては、その職場が社会保険に加入しているかどうかは、ことのほか大きな意味を持ちます。
社会保険に加入していないというだけで、求職者から敬遠されてしまったり、せっかく雇っても短期間で辞めてしまうことが多い、という傾向があるのも否めません。
そのように考えれば、社会保険の加入が義務づけられているというのは、より安定した雇用を確保できるという点で、逆にメリットと言えるかもしれません。
いかがでしょうか。
個人事業主の方が、会社を設立して法人成りすることには、たくさんのメリットがある反面、デメリットもあるということがおわかりいただけたと思います。
個人事業主の方が法人成りするかどうかの結論を出すためには、『「法人成りによる7つのメリット」のうち、どれくらい多くのメリットを享受することができるのか』ということが鍵になってきます。
個人事業主様の業種や事業の業績によっては、法人成りしてもほとんどメリットを受けられないケースもあります。
『法人成りによるデメリットは確かにあるけれども、それ以上に多くのメリットを受けられそうだ!』
もし、このような結論に達したのであれば、ぜひ法人成り(法人化)して会社として事業をおこなっていくことを検討してみてください!
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